僕は毎日、彼女の事が気になって仕方ない。
ずっと彼女の姿を探している。
姿は見えないが、彼女の声が聞こえた。
どうしても傍に近づきたいと思った。
けれど、足が思うように動かない。
僕は彼女が近づいてくれるのを待っていた。
けれど、彼女の声がどんどん遠くなっていく。
彼女の足音が小さくなっていく。
・・・追いかけたい!
そう思った時、
彼女の足音がこっちに近づいてきた。
とても速足の音だ。
彼女が走って僕の方へとんで来た。
「はまちゃん!」
彼女の目がまた、まんまるだ。
「はまちゃん!立ってるよ!しかも歩いてるよ!」
ほんとだ。
僕は立っている。
3本の足を使って立っている!
ゆっくりだけど歩くことができた。
これで彼女の傍に自分から行く事ができる。
とてもうれしくてそしてこれからが楽しみになってきた。
歩けるようになってからはずっと彼女にくっついて歩いた。
彼女が座れば僕は彼女の足に顔を置いて膝枕をしてもらった。
彼女が座らないときは足枕・・・
毎日、毎日、くっついて歩いているとだんだんともう1本の
足も使えるようになってきた。
彼女に会えない日もあった。
けど他の職員さんもみんな僕に話しかけてくれるようになっていた。
そして優しくお世話をしてくれた。だから寂しくなんかない。
そして僕はもうみんなを咬んだりなんかしない。
みんなからは「はまちゃん」の他に「ストーカー」と呼ばれる
事もあった。
彼女にずっとくっついているからだって。
「はまちゃんはストーカーするのが、いいリハビリね!」
僕はとっても幸せだった。
彼女はいつも僕を大事にしてくれた。
そしてとても優しかった。
「はまじぃ♪」と言って抱きしめてくれることもあった。
僕は本当に幸せだ。
けれど、彼女が悲しい顔をする時がある。
それは夜。
彼女は夜になるとお家に帰る。
ずっとくっついて歩いている僕は当然、
彼女が帰る時も門扉の所まで見送っている。
笑顔で彼女は「はまちゃん、また明日!」と言う。
けど、門扉を閉めるほんの一瞬、彼女は悲しそうな顔をする。
そして、僕に背を向けてから小さな声で「ごめんね」といつも言っていた。
僕は知っていたんだ。
そのあと、少し離れた所から僕が寝床に入るまで彼女が僕の事を
心配そうに見ていたのを。
だから毎日、朝一番に彼女に会うと飛んで行き、もうずーっと会えなかった
愛おしい人に会えた瞬間のように喜びを体中で表現した。
4本の足でしっかり歩けるようになってきた頃には少しジャンプをして
彼女を驚かせて喜んだりした。
本当に僕は幸せだったんだよ。