「何歳位かな?10歳は絶対に超えているよね・・・」
「今までずっと一緒にいた子を置いていくなんて、そんな気持ち理解できない・・・」
「首輪もついさっきまで付けていたような跡があるし・・・」
僕が手を咬んでしまった彼女は悲しそうな顔で話をしていた。
僕は知らない場所に連れて来られた不安と大好きだった飼い主に迎えに来て欲しい
一心で場所が変わっても鳴き続けた。一晩ずっと叫び続けた・・・
でも、僕が一人になってしまって2回目の朝が来た時、鳴くのは止めることにした。
もう飼い主には届かない気がした。
僕は「希望」を失ってしまった。
その日の朝、僕が手を咬んでしまった彼女が僕に近づいてきた。
そして僕の顔を見てすごい笑顔で
「はまちゃん!おはよう!」と言った。
僕は「ブラック」だ。
「はまちゃん」なんて誰の事なんだかわからない。
その日、何度も彼女が近づいてきて「はまちゃん」と僕の顔を覗き込んでは
話しかけてきた。何度も何度も。
僕は「希望」を失ってしまって放っておいて欲しかった。
誰にも近づいてきて欲しくなかった。
だから近づいてくる人には唸って威嚇した。
お腹も空かないし、何もする気にはなれなかった。
僕を立たせようと後ろ足を触る人がいれば本気で咬んだ。
僕に触っていいのは飼い主だけだ。
「はまちゃん!」
またあの彼女が来た。
僕は何度も唸って威嚇した。
「何も食べてないでしょ?元気出ないよ!」
食べ物やお水を持ってきてくれる彼女。
けれど僕はもう食べ物もお水でさえも口にしたいとは思わなかった。
「お散歩に行こう!」
後ろ足を触る彼女を僕はまた咬んだ。
ずっと拒否し続ける僕に彼女はあきらめることもなく
何度も何度も話しかけてきた。
「はまちゃん」「はまちゃん」「はまちゃん」
自分の名前でもない「はまちゃん」と僕を呼ぶ彼女と絶対に目を合わさなかった。
だって僕は「ブラック」だから。
←実は目が合っていません・・・
「はまちゃん!」「はまちゃん。おはよう」
「はまちゃん。」「はまちゃん★」「はまちゃん♪」
毎日毎日、1日に何度も何度も「はまちゃん」と声を掛けられた。
ある日。。。
「はまちゃん!」という声がまったく聞こえない。。。
そんな日があった。
気が付けば「はまちゃん」と呼ばれる事が日課になっていた。
いつも1日に何度も僕の顔を覗いて「はまちゃん」という彼女。
ずっとずっと拒み続けた僕。
けれど、「はまちゃん」という声が聞こえない今日。
僕はとても不安で寂しい気持ちになった。
彼女の顔が見たい。そう思った。
そして彼女の顔を思い出した時、
彼女は僕の「希望」なのかもしれない。そう思った。